第8期会長 大島 康裕

 第8期の会長に選出されました東京工業大学の大島です。2020年9月からの2年間、分子科学会の運営の任に当たらせて頂きます。宜しくお願い致します。

 会長就任に際して、まず何よりも、新型コロナウイルス感染症に罹患された方々、さらに、先頃の記録的な大雨と河川の氾濫で被災された方々に、心よりお見舞いを申し上げます。コロナ感染予防という面では、会員の皆さん方も対面からリモートへの移行などに多大の労力を払い、また、研究活動の大幅な制限などの困難に直面されておられることと思います。分子科学会におきましても、分子構造総合討論会からの長い歴史を引き継ぐ分子科学討論会を中止せざるを得ませんでした。日本では感染拡大鎮静化の兆しがようやく見えるようになりましたが、依然として予断をゆるさぬ状況が続くものと思われます。

 分子科学会は、分子構造総合討論会と分子科学研究会とを母体として2006年に設立して以来、歴代会長、幹事、運営委員の方々の努力、またすべての会員の方々の活発な活動のおかげをもちまして、これまで順調に発展してまいりました。しかし、1年前には想像もしていなかった状況の真っただ中にある今、今後の在り様を真摯に検討する必要があります。その際、本学会設立の意義、つまり、定款にも謳われている「分子科学の研究および教育の振興をはかり、もって学術、文化の発展に寄与する」という根幹を微塵もゆるがせることなく、柔軟に対応していくことが肝要と考えます。具体的には、分子科学会における今までの様々な活動に関して、変えるべきところ(と言うよりも変えざるを得ないところ)、変えてはいけないところ、を明確に仕分けして今後の運営を進めて行きたいと考えています。

 「変える」方向性としては、当然ですがオンライン化の推進が挙げられます。分子科学討論会の中止を受けて、学生の皆さんが研究発表を行う貴重な機会を確保するために、同じ会期日程でオンライン討論会を開催する予定です。この分子科学会としての初めての試みは、分子科学討論会の実行委員会であった大阪大学の皆さんからのボランタリーなご提案に基づき、その他の全国の大学・研究所からも多くの方々が企画・運営に加わって頂いて、実現の運びとなったものです。新実行委員会の皆さんの献身的な努力に深く感謝致します。当初の予想を大幅に超える200件以上の講演申込があり、4会場4日という充実したプログラムになりました。オンラインでの研究発表・討論であり、対面とは勝手が違う点も多々あるとは思いますが、今までの分子科学討論会と同様に自由闊達で充実した討論が行われることを大いに期待しています。

 オンライン化としては、来年3月開催予定の日本化学会年会もオンラインでの実施が決定しています。分子科学会は、日本化学会の物理化学ディビジョン、理論化学・情報化学・計算化学ディビジョンとの共同事業として、化学会年会においてアジア国際シンポジウムを開催してきましたが、次回はオンラインでの実施となります。分子科学会の国際化推進における新たな試みであり、周到な準備としっかりとした評価を行って今後に繋げていきたいと考えます。また、分子科学会の運営委員会、幹事会や各種委員会も、今後はできるだけオンラインで開催することを計画しています。このような対面からオンラインへの切り替えは、参加者の方々に対する利便性の向上・事務作業の簡略化・経費の節減という複数のメリットがあり、コロナ感染症鎮静化後も継続するのが適当と考えています。

 一方で、「変えない」方向性としては、次年度以降の分子科学討論会は従来通り対面形式で実施することを目指して計画を進めて参ります。討論会の役割が研究成果の発表と討論のみであれば、オンラインでも実施しうるとは考えられます。しかし、分子科学を含むサイエンスは何より「文化」であり、互いのサイエンスへの敬意と共感を基盤とします。このような深いレベルでの共感は、研究者たちが顔と顔を突き合わせて侃々諤々議論し、時に反発し、ともに笑う、という全人的交流を通して育まれるものです。分子科学討論会は、国内外で分子科学に携わる様々な皆さんに、このような交流の機会を与える場で在り続けてきました。今後も在り続けて欲しいというのが私の個人的な思いですが、ご同感頂ける方が大多数かと推察します。もちろん、参加者の皆さんの健康が第一であり、実行委員会をご担当頂く方々と運営委員会・幹事会が緊密に連携し、感染状況を見守りつつ慎重に対応していく所存です。

 最後に、分子科学会の大きな使命の1つが人材の育成であることを鑑みると、現在、分子科学を志す若い人たちが極めて不安定な状況に置かれていることは最も憂慮すべきであります。上記で述べましたオンライン討論会の開催は、これまで分子科学討論会が担ってきた若手育成の役割を担保するために企画されました。会員の皆さんのお知恵を結集して、次代を担う世代への更なるサポートに取り組みと思います。ご提案やご意見をお寄せ頂ければ幸いです。

 会員の皆様方におかれましては、くれぐれもご健康には留意されてお過ごしになられますように。今後とも分子科学会の活動へのご理解とご支援をお願い申しあげ、会長就任のご挨拶と致します。

2020年9月1日

分子科学会第8期会長 大島 康裕