会長挨拶

 このたび分子科学会第10期会長を拝命しました早稲田大学の中井です。会長就任にあたり会員の皆様、そして、分子科学に関心をお持ちの皆様にご挨拶申し上げます。2024年9月から2年の任期の間、歴代の会長、幹事、運営委員、各委員の皆様が築き上げてこられた伝統を継承しつつ、分子科学会のさらなる発展を期し会員の皆様とともに新たな試みにも挑戦する所存です。どうぞよろしくお願いいたします。

 昨今、我が国の基盤的な研究力の低下が顕在化しています。この背景には、大学や研究所における活動のあり方や、政府の科学政策の影響も大きいことでしょう。しかし突き詰めれば、個々の研究者の日々の研究活動の充実こそが、この問題の解決に望まれるはずです。そのような状況にあって、分子科学会などの学会はどのような役割を果たすべきでしょうか。日頃の研究成果を発表し、自由闊達な議論を通してさらなる高みを目指す場、互いに刺激を与え合い、時にはライバル、時には協力者として切磋琢磨する仲間を見つける場、そのような場を提供することが、学会の果たすべき役割であろうと考えます。分子科学会の最も重要な事業である分子科学討論会は、まさにそのような場となっています。また顕彰事業では、素晴らしい研究成果を発表した研究者には優秀講演賞・優秀ポスター賞を、質の高い研究成果を積み重ね分子科学に対して貢献の大きい研究者には奨励賞・国際学術賞・学会賞を授与し、個々の研究者の活躍を促しています。加えて、電子ジャーナル“Molecular Science”による研究成果の公開、速報を通じた情報発信、若手支援や共催・協賛・後援による研究会・講演会の助成の各事業を通じて学会内外での研究交流を促進し、分子科学会および会員のプレゼンス向上につなげています。

 一方で、研究力低下の傾向に歯止めをかけ、むしろ分子科学に飛躍的な進化をもたらすには、これらの事業を漫然と継承し遂行するだけでは不十分です。ジェンダーバランスをはじめとした、会員の多様性の向上は分子科学会において取り組むべき喫緊の課題です。単に数値目標を追い求めるだけでなく、多様なプレイヤーの参画を促すことで、新たな相互作用を生み出したいと思います。多様で豊かな相互作用に基づいて、分子科学会にシンギュラリティともいうべき予期せぬ「化学反応」が起きることを期待しています。

 産業界との相互作用もまた重要です。基礎研究は、企業における研究者が目指す応用研究とかけ離れていると考える方もおられるかもしれません。しかし基礎研究であればこそ、研究者の好奇心・創造性に根差した幅広い応用が実現します。産学が一体となって研究分野を開拓し、新しい技術の社会実装が実現することを期待します。企業の研究者が積極的に基礎研究に触れ、そして、応用研究につなげられる場にしたいと思います。

 日本化学会におけるアジア国際シンポジウムの共催や、分子科学討論会における台湾からの研究者との交流は、国際化において重要な事業です。海外の研究者と英語でコミュニケーションを取り、議論を戦わせ、そして、親睦を深めてもらいたいと思います。一人でも多くの会員がこれらの国際交流の機会を通じて、世界が実に多様性に富んでいることを実感していただければ幸いです。

 佃前会長が導入した分子科学討論会における高校生のポスター発表や高校生向けのパンフレット配布は、近い将来の分子科学を担うプレイヤーにつながる試みです。この取り組みを継承し、発展させてまいります。

 最後に、持続可能性の観点で安定した経済基盤は不可欠です。分子科学会は、一般会員・学生会員の皆様に加えて、賛助会員の各社様・各団体様からの会費により支えられています。多様性に富み、活気のある学会であり続けることが、サポーターの皆様にできる恩返しと考えております。すでに賛助会員である皆様には、引き続きの応援をいただきたく存じます。また、新たに賛助会員としての協賛を検討されている各社様・各団体様も是非よろしくお願いいたします。

 私が任期を終える2026年8月は、2006年の分子科学会設立から20周年にあたります。清々しい気持ちで節目を迎えられるよう、全力で邁進する所存です。何卒、会員の皆様、そして、分子科学に関心をお持ちの皆様のご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。

2024年9月1日

分子科学会第10期会長 中井 浩巳

歴代の会長挨拶