分子科学研究会は、1965年に設立され、分子科学の発展と、分子科学研究所の健全な運営に寄与することを目的とした団体で、現在約600名の会員が所属しています。まず、その設立の経緯やこれまでの歩みについて、簡単に紹介致します。わが国で分子科学という言葉が始めて使われたのは、量子化学計算の先駆者であった小谷正雄先生を代表者として1961 年から始まり、化学・物理の研究者が集まって実施された科研費総合研究「分子科学」です。この総合研究を通じて分子科学分野のコミュニテイーが結成され、そのセンターとして分子科学研究所を設立しようという気運が生まれました。これを推進すると共に分子科学の発展を期するために、300名を越す分子科学分野の研究者が結束して 1961年に生まれたのが分子科学研究会です。これと平行して、それまでに開かれていた構造化学討論会、分子の電子状態討論会、赤外ラマン討論会が合同して、今日に続く分子構造総合討論会が1963年に生まれ(今の形態では 1965年から)、文字どおり分子科学のコミュニテイーがしっかりした形をとりました。その分野は原子、二原子分子から、生体関連分子や高分子におよび、また気体やプラズマ、液体、固体、液晶、ゲル、表面などの広い分野に及んでいますが、分子を対象とする研究に共通の言語・方法論といったものの存在を感じて結束したのであろうと思われます。
分子科学研究会では、その後役員を会員の選挙で選ぶなどの改組があり、任期2年の役員のもと、会報やサーキュラーの発行、会合の開催、名簿の発行、さらに分子研のあり方についての熱心な討議などが行われました。また、分子研の設立準備が進むと、公式準備の場となった学術会議化研連分子科学小委員会の構成員のうち、5名の推薦を分子科学研究会が依頼されました。このような高まりを受け、第4期、1977年に、念願の分子研が設立されたのです。この間、リーダーとなられた森野米三先生を始めとする年輩の先生方とともに、20代、30代の若手が活発に意見を述べ、委員の多数がこの年代の人々で占められていました。またこれらの若手は独自に「分子科学若手の会」を結成して「分子科学夏の学校」を開催し、分子科学研究会はこれに財政援助を行ってきました。 分子研に対しても分子科学研究会はコミュニテイ−と分子研を結ぶパイプとしての役割を果たし、所長の諮問に応じて種々の委員を推薦するなどの役割をもつ「学会等連絡会議」に対して、外部構成メンバー 14名の内、分子科学分野を代表する構成員7名を2年毎に推薦してきました。一方、独自の活動としてサーキュラーの発行、新博士・修士の紹介、グループ毎にまとめられた名簿の発行などの活動を行っていました。
このような活発な活動をしてきた研究会ですが、分子研が設立され、また多くの大学で分子科学研究が盛んになるにつれて、研究会の活動が上記の構成員の推薦などに限定される時期もありました。しかし、分子科学に共通の言葉が存在し、分野としてのアイデンテイテイーをもつならば、そのコミュニテイーを代表する団体として、分子科学の発展のための独自の活動を積極的に行なうべきであるという再認識がなされました。今日のように分子科学が多岐に発展・成熟した状況を考えますと、分子科学研究会は「分子科学の振興」という設立の原点に立ちかえり、次の時代を見据えた新しい発展のために、その機能を発揮することが求められており、こうした機運を受け、分子科学研究会としてどのような役割ができるかを幹事会や委員会で議論し、以下のような幾つかの大きな変革を2000年以降進めてきております。
まず第一に、このホームページを立ち上げ、メーリングリストの充実を図りました。「情報源として会員に役立つもの」にしようという目標のもとでのメーリングリストにより、現在では多くの研究会活動、公募情報などが会員の皆様に届けられており、研究活動あるいは就職活動のために大きな情報源となっております。こうした活動も有り、分子科学研究会への若い研究者の入会が多くなってきました。また、研究会のホームページを開設し、このページでは、学会・研究会・人事公募などの情報がまとめて見られる他、協賛企業の理化学製品情報、研究会としての活動も紹介しております。
第二に、「分子科学究会シンポジウム」を開催することにいたしました。近年の分子科学の発展には目覚しいものがありますが、それと共に研究領域が広く拡大し、かつそれぞれの分野における高度な専門的知識が蓄積されるに連れて分野間の垣根が高くなり、分子科学全体を見渡した横断的な討論の機会が減少しております。これは分子構造総合討論会の細分化されたセッションを見るとき明らかですが、より多くの研究者を引きつけて境界領域にまで発展していくべき分子科学としての発展を阻害していると思われます。こうした現状を踏まえ、分子科学研究会では、分子科学の各分野において、先端的であると思われるいくつかのテーマを分野横断的な観点から選び、それらのフロンティアで活躍する研究者および聴衆の間で集中的な討論を戦わせることを通じて、分子科学分野の次世代に向けた活性化を試みる「分子科学研究会シンポジウム」を提案しました。特に、通常の討論会では発言の機会があまりない大学院生や若手研究者にも積極的に討論に参加していただけるように討論に充分な時間を確保し、忌憚のない意見を交換する場とすることなどの新しい形式を採用しております。「第一回分子科学究会シンポジウム」を2002年5月17日18日に開催し、その時のアンケート結果などから非常に多くの賛同が得られ、これに勇気付けられて毎年このシンポジウム開催を続けております。
第三に、財政的基盤を固めることを進めております。分子科学研究会としての上記のような活動を続けていくために、多くのボランティア的サポートが必要であり、これまでの委員長、事務局などの献身的働きで支えられてきております。しかし永続的な発展を踏まえた研究会運営を考えると、財政的な基盤が必要であることは自明であり、委員の間でも認識されるようになりました。このため第16期の委員会で議論を重ねた結果、学生以外の会員から年会費2000円を徴収するとの決定がなされました。これまでのところ、この会費は以下のような事業に使われております。
a)メーリングリスト、ホームページの充実:現在のメーリングリストとホームページは、継続的な更新が生命線であり、情報の更新とともに、さらに有用なホームページとする努力を計っております。
b)分子科学研究会シンポジウムなどの研究会活動
c)名簿の作成・維持
更に財政基盤の充実を図りながら、現在は分子研にサポートをお願いしている「分子科学若手の会」への援助とともに、分子科学研究会からも若手の活動を一層援助することを検討しております。
このように、分子科学分野の更なる発展のため、研究会は多くの活動を続けて参りますが、こうした活動にはこの分野の多くの研究者や学生のご理解とご協力が必要です。研究会には、学部卒業またはこれに準ずる方で、幹事会の承認が得られれば入会できますので、どうか奮ってお申し込み下さい。