第1回分子科学会シンポジウム報告

 第1回 分子科学会シンポジウム 報告

議論白熱!
第1回分子科学会シンポジウム盛会の内に終了

 平成19年7月7日(土)東京大学本郷キャンパス理学部化学本館5階講堂にて、第1回分子科学会シンポジウムが開催されました。出席者は75名を越え、「光物性と磁性」、「生命と光」、「固体とコヒーレンス」の3つのセッションにおいて、会場を巻き込んだ活発な討論が行われました。

 セッション1では、スピンクロスオーバー錯体における低スピン状態と高スピン状態の時空間非線形ダイナミクス、そして、ジラジカル性と超分極率の相関を機軸として議論が進みました。セッション2では、生体のイメージング技術のめざましい発展とその意義と応用について議論が行われました。そして、セッション3では、固体において生成したコヒーレントなエキシトンとフォノンが如何にデコヒーレンスを起こすかについて、その機構と、それを調べるためにあるべき実験について議論が戦わされました。引き続き行われました懇親会でも、懇親会場のあちこちで、さらに熱いディスカッションが続きました。

 ディスカッションをたくみにリードされたディスカッションリーダーの先生方、そして、すばらしい講演をしてくださいました講師の先生方に厚く御礼を申し上げます。また、活発にご発言をいただき議論を盛り上げてくださいました出席者の皆様に感謝申し上げます。

 分子科学会の財政が苦しい面があり、ディスカッションリーダー、講師の先生方に旅費を十分にお支払いできなかったことをお詫び申し上げます。そして、ポスターの印刷や、要旨集のプリントをせずに出費を抑えましたが、実質的な議論で、それも白熱した議論で盛り上がるという、議論に重点を置いたシンポジウムの良い面がいかんなく発揮されたことは、シンポジウムの本来の姿を見せ付けるものでした。

 この熱気を来年の第2回分子科学会シンポジウムに引継ぎ、分子科学の学際的な発展に資することができるよう努力してまいりたいと思っております。今後とも、よろしくお願い申し上げます。

分子科学会
企画委員長 山内 薫

東大理学部化学東館正面玄関前にて
東大理学部化学東館正面玄関前にて

第1回 分子科学会シンポジウム 開催のご案内

 昨年の9月に発足いたしました分子科学会では、これまでの分子科学研究会における経験を生かし、分子科学会の行事として、「分子科学会シンポジウム」を開催することになりました。今年は、その第1回目のシンポジウムを、下記の様に平成19年7月7日に東京大学本郷キャンパスにて開催いたします。
 学問が深化し、多岐にわたる研究が展開されている今日、分子科学は、学際的な研究領域の要となる学術分野として、その重要性が益々高まっています。分子科学会シンポジウムでは、急速に広がっている分子科学のフロンティア領域に注目し、先端領域で活躍する研究者にご講演いただくとともに、参加者が次世代の分子科学の地平を見渡すことができるように、ディスカッションの時間を十分にとっております。

 第1回目となる今回は、「光物性と磁性」、「生命と光」、「固体とコヒーレンス」という3つのテーマについて、ディスカッションリーダーの先生の御協力の下、それぞれの研究の最前線を、議論を通じて深める場としたいと思っております。

 シンポジウムにはどなたでも御参加が可能です。登録費は無料となっておりますので、お誘いあわせの上、御参加いただけますと幸いです。

 なお、分子科学会の財政は規模が十分では無いため、参加者への旅費の補助やサポートを御用意することができません。東京地区外から来られる方々には、申し訳なく思っておりますが、御理解を賜れば幸いです。

 皆様の御参加をお待ちしております。

平成19年5月31日
分子科学会 
企画委員長  山内 薫

第1回 分子科学会シンポジウム

日時

平成19年7月7日(土) 9:50~17:40

場所

東京大学理学部化学本館5階講堂(地図

主催

分子科学会

参加登録費

無料

プログラム

  • 9:50-10:00 はじめに
  • 10:00-12:00
    セッション1 光物性と磁性 セッション1の概要はこちら
    ディスカッションリーダー:大越慎一(東京大学)
    講演1:田中耕一郎(京都大学)
    「スピンクロスオーバー錯体における光誘起時空間ダイナミクス」
    講演2:中野雅由(大阪大学)
    「開殻分子系の非線形光学物性」
    ディスカッション
  • 12:00-13:00 昼 食
  • 13:00-15:00
    セッション2 生命と光 セッション2の概要はこちら
    ディスカッションリーダー:小澤岳昌(分子科学研究所)
    講演1:菊地和也(大阪大学)
    「分光特性変化スイッチのデザインによる生体内分子可視化プローブ」
    講演2:加納英明(東京大学)
    「分子イメージングによる生細胞のin vivo追跡」
    ディスカッション
  • 15:00-15:30 休 憩
  • 15:30-17:30
    セッション3 固体とコヒーレンス セッション3の概要はこちら
    ディスカッションリーダー:大森賢治(分子科学研究所)
    講演1:萱沼洋輔(大阪府立大学)
    「固体におけるコヒーレンスとは?」
    講演2:石岡邦江(物質・材料研究機構)
    「過渡反射率測定でみる固体結晶中のコヒーレント格子振動」
    ディスカッション
  • 17:30-17:40 おわりに
  • 18:00- 懇親会

セッション1の概要

 光と磁性(スピンあるいは磁化)の相関による新規現象や物性・機能性は、化学 および物理の横断的な基礎科学的分野のみならず、次世代光デバイスへの展開と いった応用的観点からも興味が持たれる課題です。分子における磁性の主役はス ピンが担っており、分子集合体では、磁化が担っていると言えます。このような 磁性を示す物質が光に共鳴した際に引き起こされる現象としては、光エネルギー により磁性が変化するという可能性と、磁性により光の性質が変化するという可 能性の二つの捉え方があると思います。本セッションでは、磁性物質と光との相 関により、どのような光物性が期待されるか?観測されるか?といった命題に関 して、光誘起相転移現象、非線形光学現象に及ぼすスピン状態などの実験的研究 および理論的研究を行っている田中耕一郎先生(京大)、中野雅由先生(阪大) のお二方の先生のご研究に関するご講演を出発点として、その可能性と研究の方 向性に関して討論を進めます。

  • 大越慎一:
    1. “Photo-magnetic and magneto-optical effects of functionalized Prussian Blue Analogs,” S. Ohkoshi and K. Hashimoto, J. Photochem. Photobio. C, 2, 71 (2001).
    2. “Magnetization-induced second harmonic generation and third harmonic generation in transparent magnetic films,” S. Ohkoshi, J. Shimura, K. Ikeda, K. Hashimoto, J. Opt. Soc. Am. B, 22, 196 (2005).
  • 田中耕一郎:
    1. “Spin Crossover and Photomagnetism in Dinuclear Iron(II) Compounds,” A. Bousseksou, J. A. Real, and K. Tanaka, Coordination Chemistry Reviews, in press (electrically published), 2007.
    2. “Modification of vibrational selection rules in the photo-induced spin-crossover phase,” Takeshi Tayagaki, Koichiro Tanaka, and Hidekazu Okamura, Phys. Rev. B 69, 064104 (2004).
  • 中野雅由:
    1. “Second Hyperpolarizability (gamma) of Singlet Diradical System: Dependence of gamma on the Diradical Character, ” M. Nakano, R. Kishi, T.Nitta, T. Kubo, K. Nakasuji, K. Kamada, K. Ohta, B. Champagne, E. Botek,and K. Yamaguchi, J.Phys. Chem. A, 109, 885(2005).
    2. “Theoretical study on the second hyperpolarizabilities of phenalenyl radical systems involving acetylene and vinylene linkers: diradical character and spin multiplicity dependences, ” S. Ohta, M. Nakano, T. Kubo, K. Kamada, K. Ohta, R. Kishi, N. Nakagawa, B. Champagne, E. Botek, A. Takebe, S. Umezaki, M. Nate, H. Takahashi, S. Furukawa, Y. Morita, K. Nakasuji, K. Yamaguchi, J. Phys. Chem. A 111, 3633 (2007).

セッション2の概要

生体内で機能する生体分子の反応や動的過程を可視化する「生体分子イメージング」技術は,生物を分子レベルで理解する新たな基盤技術として大きな期待が寄せられている.本セッションでは,生きた細胞の分子分布やそのダイナミクスを非染色で可視化するcoherent anti-Stokes Raman scattering (CARS)顕微鏡の開発,生体分子認識や酵素反応を光情報変換するプローブの開発およびその生物応用を中心に,最先端の生体分子イメージングについて紹介する.化学と物理と生物の境界領域に携わる研究者が集い,これからの分子イメージング技術の方向性を検討し,近未来の展望について討論する.

▼文献およびウェブサイト

  1. http://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/46/6/46_349/_article/-char/ja
  2. 別冊化学(化学同人)「分子イメージングー蛍光プローブが拓くライフサイエンスの未来ー, 2007」
  3. http://www.chem.s.u-tokyo.ac.jp/%7Estruct/research/detail/CARSMicro.html
  4. http://www-molpro.mls.eng.osaka-u.ac.jp/
  5. http://groups.ims.ac.jp/organization/ozawa_g/

セッション3の概要

 気相の孤立分子系では電子運動と核運動のいずれに関しても、量子コヒーレンスの観測と制御が実験的に行われている。では固体ではどうであろうか?固体中で電子系(つまり励起子)のコヒーレンスとフォノン系(核)のコヒーレンスが絡み合った現象があるのだろうか?一方、分子振動の固有状態は波動関数だが、固体中のフォノンはエネルギーと波数の保存則で説明できてしまう。そのために固体のコヒーレント光学フォノンは、実験的にも理論的にも古典的振動子として考察されてきた。純粋なフォノンモードだけではなく、プラズモンやポラリトンとの結合モードでもそうである。分子の「大きくなった」ものが固体であるが、量の違いがどのように質の違いに転化するのかを議論したい。

▼文献およびウェブサイト

  1. 中島信一、長谷宗明、溝口幸司、「フェムト秒領域のコヒーレントフォノンの振舞」、日本物理学会誌 Vol. 53, No. 8, pp. 607-611 (1998).
  2. 北島グループのHP内:コヒーレントフォノンの「基礎」を解説したもの
    http://www.nims.go.jp/ldynamics/CPj.html
  3. 「半導体多重量子井戸構造における励起子量子ビートとコヒーレント光学フォノンとの相互作用」中山正昭、溝口幸司、小島磨、固体物理 Vol. 41, 257 (2006).