第5回分子科学会シンポジウム報告

 第5回 分子科学会シンポジウム 報告

第5回分子科学会シンポジウム、大盛会のうちに終了

平成23年6月28日(火)、29日(水)の2日間にわたって、岡崎コンファレンスセンターにて、第5回分子科学会シンポジウムが開催されました。大学院生と若手研究者を中心に73名の方々にご参加いただきました。「埋没界面が分子科学に何をもたらすか」をメインテーマとして、3つのセッションが開かれました。セッション(1)「界面の液体計測」では、これまで全く観ることのできなかった界面の現象が、先端的な測定法の開発により明らかになりつつある現状が示されました。総合討論では、分子科学の新しい方向性を見出そうとする意欲的な意見が多く出ました。セッション(2)「界面の液体シミュレーション」では、界面現象を取り扱う新しい理論的手法の紹介、シミュレーション結果に基づいて埋没界面をどのように理解するのかといった解説がなされました。総合討論では、理論と実験の発展的関係という分子科学に不可欠な問題に対しても議論が及び、それぞれの専門家による本音の討論がなされました。この様子は、本シンポジウムならでは光景として参加者への強い刺激となりました。日をまたいでのセッション(3)「界面の固体計測」では、不連続・不均一である埋没表面で起きていることを、「その場でそのまま観る」ことの重要性が示されました。総合討論では、興味深い実験結果に触発され、さらにその先のことが知りたいという質問が多く出ました。

それぞれのセッションが大いに有意義であったことは、シンポジウムの企画に多大なご尽力を頂いたディスカッションリーダー、ご自身の最新成果を含めてわかりやすく研究分野の現状と未来をお話し下さった講師の先生方、さらに、積極的に議論に加わっていただいた参加者の皆様のお蔭にほかなりません。ここに厚く御礼を申し上げます。また、今回の分子科学会シンポジウムは、分子科学研究所と分子科学会の共催として行われました。本シンポジウムの開催と運営を御世話頂いた分子科学研究所の先生方と研究室の皆様に感謝申し上げます。

今回の盛り上がりを次回のシンポジウムにも引継ぎ、分子科学の学際的な発展に貢献できるよう努力を続けてまいりたいと思います。今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。

分子科学会 企画委員長
中井 浩巳

第5回分子科学会シンポジウム

◆シンポジウム講演会および懇親会の様子

第5回 分子科学会シンポジウム 開催のご案内

分子科学会シンポジウムは、急速に広がっている分子科学のフロンティア領域に注目し、次世代の分子科学の地平を見渡す視点を提供すべく、分子科学会の重要なアクティビティの1つとして企画されているものです。2006年9月の分子科学会発足以来、2007年7月(東京)、2008年5月(大阪)、2009年6月(東京)、2010年7月(東京)と年1回のペースで開催され、毎回、70名を超える参加者により活発な討論が行われております。

本年度は、分子科学研究所との共催という形で、下記のように2011年6月28~29日に自然科学研究機構岡崎コンファレンスセンターにて開催いたします。第5回目となる今回は、「埋没界面が分子科学に何をもたらすか」というテーマについて、「界面の液体計測」、「界面液体のシミュレーション」、「界面の固体計測」という3つのセッションを設定しました。ディスカッションリーダーの先生の御協力の下、それぞれの研究の最前線について議論を通じて深める場としたいと思っております。

本シンポジウムは、どなたでも御参加が可能です。登録費は無料となっておりますので、お誘いあわせの上、奮って御参加頂ければ幸いです。参加登録については、参加申し込みボタンをクリックの上、ウェブよりお申し込み下さい。また、予算の関係上限りはありますが、参加旅費補助についても受け付けています。

初日(6月28日)のシンポジウム終了後に、ディスカッションリーダー・講師の先生方を囲んだ懇親会を開催する予定です。特に、学生には参加しやすい参加費となっております。こちらも合わせて御参加下さい。

皆様の御参加をお待ちしております。

2011年4月15日
分子科学会
企画委員長 中井浩巳

日時

2011年6月28日(火)13:30~29日(水)11:30
(懇親会 6月28日(火)18:30より)

場所

自然科学研究機構 岡崎コンファレンスセンター
会場へのアクセス
キャンパスの地図

主催

分子科学会

共催

分子科学研究所

参加費

(1)登録は無料、(2)懇親会は一般5,000円、学生1,500円
参加登録(懇親会登録、旅費補助申請)はこちらから

問い合わせ先

分子科学会企画委員長 中井浩巳
〒169-8555 東京都新宿区大久保3-4-1
早稲田大学先進理工学部化学・生命化学科
TEL:03(5286)3452/FAX:03(3205)2504
nakai[at]waseda.jp([at]を @ に変えて下さい)

プログラム

3つのテーマに対するセッションは各1時間50分です。内訳は、ディスカッションリーダーによるセッションの背景と現状についての説明20分程度、講師の方々による講演3件、各20分程度、そして、セッション全体の内容についての質疑・討論が30分程度です。以下にタイムテーブルと概要を示しますので、ご参照ください。

タイムテーブル

6月28日(火)

  • 13:30-13:40 開会の辞
  • 13:40-15:30
    セッション(1) 界面の液体計測
    (ディスカッションリーダー:福井賢一、講師:田原太平、福間剛士、安部武志)
  • 15:30-16:00 コーヒーブレイク
  • 16:00-17:50
    セッション(2) 界面の液体シミュレーション
    (ディスカッションリーダー:池庄司民夫、講師:白鳥和矢、赤木和人、杉野修)
  • 18:30-20:30 懇親会

6月29日(水)

  • 9:30-11:20
    セッション(3) 界面の固体計測
    (ディスカッションリーダー:大西洋、講師:竹田精治、唯美津木、平本昌宏)
  • 11:20-11:30 閉会の辞

概要

PDF版はこちらから

(1)界面の液体計測
ディスカッションリーダー 福井賢一(大阪大学大学院基礎工学研究科)

【セッション紹介】
一般的に界面近傍はバルクと異なるためにポテンシャル勾配が生じるが,液体は固体結晶と異なり構成分子に大きな自由度があるために,ダイナミクスの中で理解する必要がある.電極や細胞など固体と液体の界面を例にとると,固体同士の界面のような電子の移動だけでなく,界面を通したイオンの移動や分子の化学変換が起こる場となっている.液体の構成分子は顕著な分子間相互作用を受けながらポテンシャル場を運動するため,界面近傍の液体の挙動を理解するのは分子科学にとって挑戦的課題である.本セッションでは界面の液体側に対して実験的側面から討論することを目的とし,分子科学の観点で有望な計測法や,計測により解決すべき課題に関する三つのトピックスを集めた。田原太平先生(理化学研究所)には,界面選択的な非線形分光により液体界面分子のフェムト秒領域のダイナミクスに迫る研究について,福間剛士先生(金沢大学)には,最新の原子間力顕微鏡を利用した生体膜界面でのサブナノメートルスケールの水和構造についてご紹介いただく.さらに,安部武志先生(京都大学)には電池の充放電にとって本質的に重要な電極でのイオンの移動反応についてご紹介いただき,分子科学的計測の課題について問題提起をしていただく.本セッションは理論的アプローチを扱うセッション2と対をなすものであり,ここでは特に実験的に解決すべき課題と方向性について討論を行いたい。

(1)-1 講師:田原太平(理化学研究所)
「液体界面の非線形分光」

 電子・振動スペクトルは分子の最も基本的な情報だが、液体界面の分子について測定するのはそれほど容易ではない。それは液体界面では背後のバルク部に多数の同種分子があり、通常の分光測定では量に勝るバルク部の信号に界面からの信号が埋もれてしまうからである。偶数次の非線形分光には界面から生じる信号のみが観測できるといういわゆる界面選択性があり、界面の研究において重要な位置を占めている。非線形分光による界面の研究は1980年代始めに始まったが、特に最近、超短パルスレーザー技術を駆使した新しい方法が開発され、従来では考えられなかった様々な測定が可能となった。これによって、液体界面分子の定常状態はもちろんフェムト秒時間領域のダイナミクスにいたるまで、これまで観ることのできなかった現象を観測できるようになった。新しい展開を見せつつある液体界面の非線形分光の最新の研究結果を紹介するとともに、今後の展開の可能性について議論する。

  1. S. Sen, S. Yamaguchi and T. Tahara, Angew. Chem. Int. Ed. 48, 6439-6442 (2009).
  2. S. Yamaguchi, K. Bhattacharyya and T. Tahara, J. Phys. Chem. C 115, 4168-4173 (2011).
  3. S. Nihonyanagi, S. Yamaguchi and T. Tahara, J. Am. Chem. Soc. 132, 6867-6869 (2010).
  4. J. A. Mondal, S. Nihonyanagi, S. Yamaguchi and T. Tahara, J. Am. Chem. Soc. 132, 10656-10657 (2010).
  5. 田原太平, 「界面選択的非線形分光法」 新しい局面を迎えた界面の分子科学 (日本化学会 編, 化学同人)2011, 113-121.

(1)-2 講師:福間剛士(金沢大学フロンティアサイエンス機構)
「生体膜界面での液体構造」

 生体膜と生理溶液の界面で生じる異種分子間相互作用や、その結果として形成される複合体の構造は、生体膜の構造や機能へと多大な影響を及ぼしています。しかし、そこで生じる相互作用の空間分布や複合体の構造を分子スケールで調べるには、ソフトマテリアルと溶液との界面で生じる現象を、高感度かつ高分解能に計測できる技術が必要です。
 周波数変調原子間力顕微鏡(FM-AFM)は、固液界面において、固体表面の構造や水分子の分布をサブナノスケールの分解能で可視化できる界面計測技術です。ここでは、我々が最近行ってきた、液中FM-AFM技術の開発と、それを用いた生体膜/生理溶液界面現象の研究について紹介します 。

  1. H. Asakawa, T. Fukuma, The molecular-scale arrangement and mechanical strength of phospholipid/cholesterol mixed bilayers investigated by frequency modulation atomic force microscopy in liquid, Nanotechnology 20 (2009) 264008 (7 pages).
  2. T. Fukuma, M. J. Higgins, S. P. Jarvis, Direct imaging of lipid-ion network formation under physiological conditions by frequency modulation atomic force microscopy, Phys. Rev. Lett. 98 (2007) 106101 (4 pages).
  3. T. Fukuma, M. J. Higgins, S. P. Jarvis, Direct Imaging of Individual Intrinsic Hydration Layers on Lipid Bilayers at Angstrom Resolution, Biophys. J. 92 (2007) 3603-3609.

(1)-3 講師:安部武志(京都大学大学院工学研究科)
「インサーション電極/電解質界面でのイオン移動-リチウムイオン電池用電極を中心に-」

 ニッケル水素蓄電池やリチウムイオン電池の電極材料はインサーション材料を用いているため、それらの充放電反応はインサーション電極と電解質界面でのイオン移動反応に基づくものである。金属電極と電解質界面での電子移動の化学は非常に古い歴史をもち、近年では最先端の分光学的手法や放射光を用いて調べられている。一方、電極と電解質界面でのイオン移動反応については、上記電池の本質的な反応にもかかわらず、研究が進んでいない。本講演では、薄膜電極などのモデル電極へのリチウムイオンやアニオンのイオン移動反応に伴う活性化障壁を交流インピーダンス法により調べた結果より、イオン移動反応のモデルを電解質溶液からみたときの考え方を示すとともに、イオン移動反応をより詳細に調べるための課題などについても示す。

  1. Y. Yamada, F. Sagane, Y. Iriyama, T. Abe, Z. Ogumi, Kinetics of lithium-ion transfer at the interface between Li0.35La0.55TiO3 and binary electrolytes, J. Phys. Chem. C, 113(32), 14528-14532 (2009).
  2. Y. Yamada, Y. Iriyama, T. Abe, Z. Ogumi, Kinetics of lithium-ion transfer at the interface between graphite and liquid electrolytes: Effects of solvent and surface film, Langmuir, 25(21), 12766-12770 (2009).

(2) 界面の液体シミュレーション
ディスカッションリーダー 池庄司民夫(東北大学WPI)

【セッション紹介】
化学ポテンシャルの異なる相が接するところが界面である。そこでは、化学結合やファンデルワールス力のような近距離の相互作用と、電荷分離による遠距離の相互作用が支配している。電荷分離は、2相界面で必然的に起こるものと、電気化学系のように外部から制御されたものとがある。
これまでは表面の吸着とか、STMで観測されるような表面の2次元構造のように平面方向の構造化が注目されていた。界面垂直方向については、測定も計算も困難であったが、最近はこのような垂直方向の原子・分子オーダーの構造や電子状態などが実験、理論・シミュレーションでわかりつつある。垂直方向の物質・電荷移動は、電気化学反応として知られているが、その第一原理的なシミュレーションも可能になりつつある。
実験的には、種々の界面選択的な分光法、例えば表面増強ラマン散乱が吸着種の測定に使われてきたが、和周波発生(SFG)、表面増強赤外吸収、表面X線、中性子表面反射など、液体と固体側の広がりある領域の測定が、最近では可能となってきた。このような測定結果から、界面の状態を知るには、その測定原理にさかのぼってきちんと理解する必要がある。シミュレーションでは、直接に構造が得られるが、実験との対応を見るには、それがどのように分光測定されるかを知る必要がある。
本セッションでは、まず、表面(界面)選択的な分光法として最近注目されているSFGについて、理論とシミュレーションから紹介してもらう。次に固液界面の具体的なシミュレーション結果を、観測例と対比して紹介してもらい、固液界面の微視的かつ大域的な理解を紹介する。次に、charged interfaceとして重要な電気化学系の電子移動について、方法論から紹介してもらい、どのようなシミュレーションが現在可能なのか、その展望も含めて紹介する。
最後に、シミュレーションからわかること、実験と組み合わせてわかること、まだシミュレーション不可能な現象、そのための理論とシミュレーション技法、さらに可能なら新たな測定法への提言等について議論する。シミュレーションで明らかにすべき、自然界にとって重要な未知の現象についても議論する。

(2)-1 講師:白鳥和矢(東北大学理学研究科)
「液体界面の振動分光」

 和周波発生(SFG)スペクトルには界面のミクロな情報が含まれているが、得られる結果の解釈や同定に任意性が高い場合も多い。近年、分子シミュレーションにより界面の構造とSFGスペクトルを同時に計算する手法が確立されてきた事から、実験で得られるスペクトルの精細な理解の進展が期待されている。本講演では、最新の分子シミュレーションによる液体界面のモデリングとSFGスペクトルの計算手法について解説するとともに、水の表面構造や界面におけるイオン分布等への適用例を紹介する。

  • S. Yamaguchi, K. Shiratori, A. Morita, T. Tahara, “Electric quadrupole contribution to the nonresonant background of sum frequency generation at air/liquid interfaces”, submitted to J. Chem. Phys.
  • A. Morita and T. Ishiyama, “Recent Progress in Theoretical Analysis of Vibrational Sum Frequency Generation Spectroscopy”, Phys. Chem. Chem. Phys., 10, 5801 (2008).

(2)-2 講師:赤木和人(東北大学WPI)
「水-半導体・酸化物界面の液体構造」

 電極反応、触媒反応、摩擦や潤滑、吸着など、固液界面における化学的・物理的現象は多種多様であり産業応用との結びつきも深い。中でも、固体表面と水溶液との界面の性質を微視的に理解することは、環境負荷の少ない代替系を開発するために不可欠である。
 しかし、固液界面の最界面領域での溶質や溶媒の分布とダイナミクスは、沖合のバルク溶液へとつながる大域的な溶液構造やダイナミクスと相互に影響しあうため自明ではない。密度汎関数法や量子化学的手法によって取り扱うにも、溶質・溶媒の密度や初期配置の適切な与え方および構造緩和の時間スケールに対する知見が不足しているのが現状である。
 我々は、密度汎関数法を適宜併用しながら分子力場に基づいた中規模分子動力学計算(~1万原子系)を行い、さらに水溶液系に特徴的な水素結合ネットワークの構造とダイナミクスに注目して、固液界面の微視的かつ大域的な理解を試みている。
 本講演では半導体やモデル酸化物と水との界面を系統的に取り扱い、水分子の密度分布や水素結合ネットワーク構造、構造緩和の時間スケールといった情報から、いわゆる疎水性表面や親水性表面とバルク水との界面がどのように理解できるのかを紹介する。

(2)-3 講師:杉野修(東京大学物性研究所)
「固液界面の電子移動」

 電気化学系を微視的側面から捉えるならば、それは大域的な構造揺らぎで決まる反応場の下で瞬時に起こる電子移動反応動力学である。反応場の下、水素原子(またはイオン)が刻一刻と配置を変え、ある条件が整うと断熱的(あるいは非断熱的に)電子を授受しながら化学結合が組み替わる。この過程を経ながら酸化還元反応が進行する。
 その詳細を計算機シミュレーションに基づき正しく理解することは、固液界面の機能性を語る上で重要であろう。 そのような計算手法が現在、どこまで進んでいるのか、どこにブレークスルーを必要としているのか、といったことを本講演では紹介する。紹介する例は金属・水溶液界面での水の電気分解(燃料電池反応)に関するボルン・オッペンハイマー動力学(すなわちいわゆる第一原理分子動力学計算)、半導体中や表面での非断熱量子動力学計算である。方法論的側面や将来の展望を含めて紹介する。

(3) 界面の固体計測
ディスカッションリーダー 大西洋(神戸大学大学院理学研究科)

【セッション紹介】
有限の厚さをもつ開放系として界面をあつかうために、固体の側においては表面第一層だけでなく、第二層や第三層をあらわに考慮することが求められる。構造化学的には、第一層・第二層・第三層の原子配列が、媒質や吸着化学種の組成とどのように関係するのかが興味ある課題である。化学変化は常に物質とエネルギーの出入を伴うから、固体内部から表面第一層へ輸送されて吸着化学種や媒質に受け渡されるメカニズムを解明することが界面を理解することに他ならない。しかし、これらの課題に実験的に答えていくことは依然として簡単ではない。セッション3では最新鋭の透過電子顕微鏡(TEM)やエックス線吸収分光(XAS)を用いて界面反応の観察に成果をあげつつある竹田精治先生と唯美津木先生、物質開発と計測の両面から金属-有機化合物接合の研究を進めておられる平本昌宏先生をお招きして、界面固体の分子科学について将来展望を語っていただく。

(3)-1 講師:竹田精治(大阪大学産業科学研究所)
「環境制御透過電子顕微鏡でさぐる金属ナノ粒子触媒の構造変化」

 金属ナノ粒子は、カーボンナノチューブやシリコンナノワイヤーを原料ガスから合成するときの触媒となる。また、酸化物担体に担持すると有害なガスを無害なガスに変換する触媒としても働く。この金属ナノ粒子の触媒活性は良く知られているのだが、しかし、活性中の金属ナノ粒子の内部や表面でどのようなことが原子スケールで起こっているのか?については以前は想像の域を出なかった。しかし、特殊な「環境制御型」透過電子顕微鏡を利用すると、ガス中にある金属ナノ粒子の内部や表面での動的な現象を原子スケールでその場で観察できる。講演では、具体的な観察例を紹介しながら、金属ナノ粒子の触媒活性の起源について考察したい。

(3)-2 講師:唯美津木(分子科学研究所)
「エックス線吸収微細構造法で探る固体触媒の化学変化」

様々な物質合成、化学反応を進行させるために極めて重要な役割を果たしている固体触媒は、その構造に基づいて特異な触媒活性を発現する。固体触媒の典型で ある担持金属触媒は、高比表面積の担体の上に金属微粒子や金属酸化物微粒子、金属錯体などを高分散に担持したものであり、周期的構造を有さな いことからX線結晶構造解析による構造決定が出来ないことが殆どである。このため、固体触媒系の触媒活性構造の解析にはエックス線吸収微細構造法(XAFS)が極めて有効な手法であり、活性種である金属種の局所配位構造に関する情報が得られる。最近の発展により、触媒反応が進行する時間スケールでの時間分解XAFS計測や、触媒粒子サイズのエックス線マイクロビームを使った顕微XAFS法などが開発され、固体触媒の化学変化や空間情報が明らかにされつつある。現状と最近の研究例を紹介する。

  1. 唯美津木, 岩澤康裕 「時間分解X線吸収微細構造(XAFS)の現状と触媒反応過程の解析」、Electrochemistry(電気化学)2006, 412-416.
  2. 唯美津木, 「時間分解XAFS法による触媒表面の動的構造解析と触媒構造速度論」、表面科学, 2009, 30,75-83.

(3)-3 講師:平本昌宏(分子科学研究所)
「有機薄膜太陽電池におけるバルク接合界面」

 今日の有機薄膜太陽電池は、光誘起電子移動によってキャリアを効率的に発生するために、ドナー性とアクセプター性の有機半導体の混合層が用いられている。混合層において高効率を得るためには、光生成した電子とホールを電極まで別々に輸送するルート形成が必要なため、ナノ構造の制御が不可欠である。また、有機半導体の超高純度化、pn制御にもとづいた、シリコン等の無機半導体に匹敵する、有機半導体物性物理を確立し、有機薄膜太陽 電池に適した内蔵電界の形成方法の確立、セル内部抵抗の低減、金属/有機接合のオーミック化を行うことも必要である。本講演では、このような有機 薄膜太陽電池のバルク接合界面のナノ構造制御、内蔵電界形成方法について、最近の研究成果を述べたい。

  1. 日本化学会編、化学同人「人工光合成と有機系太陽電池」16章「p-i-n接合を用いた高効率有機薄膜太陽電池」平本昌宏、2010, p149-154.