Molecular Scienceのサイトにようこそ。Molecular Scienceは分子科学を中心とした研究・教育に関する新しいジャーナルです。未だ2巻までしか刊行しておりませんが、pdfダウンロード数は毎月1万件を超えており、多くの読者を得ております。直ぐにご覧頂けるフリーアクセスの記事について、簡単な道案内を致しますので、是非ご覧になってください。
第1巻の巻頭には、ノーベル化学賞を受賞した李遠哲博士の日本語の文章(PDF;3.6MB, 15ページ)が掲載されています。内容は、戦争中であった幼い頃から科学者となることを目指して、博士が何を思い計画を立てて成長してきたかというものです。これは、博士が日本の子供達のために特別に準備した文章で、内容は中学生以上の方には、だいたいご理解いただけるものと思います。子供達には是非読んで頂きたい文章です。同じ第1巻の天埜堯義博士の文章(PDF;164K, 5ページ)は、基礎研究とは何かに対する博士の思いを科学史的な事実を例に取りながら、述べている素晴らしい文章です。ちょっと辞書を引きながら、高校生の方にも読んでいただけるのではないでしょうか。その他第1巻には、篠原久典博士のフラーレン(サッカーボールのような分子)に関する研究解説(PDF;856KB, 7ページ)もあります。フラーレンが発見された時の研究者の興奮、そしてナノチューブと呼ばれる筒状の炭素化合物の応用までが述べられています。篠原博士ならではの筆致で熱く語っておられます。第2巻の金有洙博士の文章は、日本における外国人研究者に関するものです。博士は韓国籍ですが、日本の研究者にあこがれて来日、学位取得した後、日本で研究活動を行っています。もちろん博士自身が日本語で書かれたものです。
今社会のあらゆる面でグローバリゼーションが起こっています。そこで、日本を取り巻く諸外国の研究・教育環境についても興味が持たれます。第2巻のSalonでは、台湾、韓国の代表的な大学がその教育研究活動のレベルアップをいかに進めているかについて、国際的に著名な二人の教授が寄稿しています。第1巻のSalonでは、林さん(PDF;232K, 3ページ)がアメリカでの博士研究員としての体験を、若い方々を念頭に報告しています。
ところで、Molecular Scienceの解説記事(Award Accounts & Review)は、全て大学院修士課程の学生さんが読み通せるように専門用語などに十分留意することをルールとしています。Award Accountsというセクションでは、分子科学会奨励賞を受賞した若手研究者が研究内容を解説しています。記事の内容については、全てシニアな研究者が査読を行って、記事をより一層充実させ明快にするようにやりとりをしました。第1巻の加納英明博士(PDF;776K, 8ページ)と井村考平博士(PDF;768K, 7ページ)は、偶然どちらもmicroscopy(顕微鏡)に関連した話題となっております。生命、環境、宇宙などの自然科学ならびにナノテクノロジーなどの技術においては、分子レベルの研究が今や当たり前になっています。WatsonとCrickが遺伝情報を司る二重らせんを明らかにして以来、生命現象の解明や医療に対して化学の果たす役割は明らかになりました。分子をエレクトロニクスの素子として利用するという研究にも長い歴史があります。分子を理解する学問としての分子科学は、さまざまな科学・技術の基礎となるものです。Award Accountsと同様に、Reviewも解説記事ですが、こちらはシニアな研究者の解説であり、分子科学会に属しておられない先生方にも積極的に原稿を依頼しています。
New Productsは、分子科学に関わる製品を発表、販売している企業の解説記事です。内容は学術的なものであり、企業の広告というニュアンスではありません。New Productsについても、編集委員会が査読を行い、その内容を確認して記事にしております。アクセス統計に寄りますと、New Productsへのアクセス件数は、その他の学術記事とほぼ同じであり、多くの方々に参考にしていただいております。
忘れてはならないのはArchivesです。ここでは、研究者の先生方が執筆されたテキストを無料で公開しております。例えば、安積徹先生の量子化学のテキストは、東北大学理学部化学教室で講義に利用したものをベースとして、加筆修正したものを公開しておりますが、前編(PDF;4.4M, 376ページ)・後編(PDF;2.9M, 409ページ)とも数百ページにわたる大部なものです。大学の学部学生の方々の参考書に、あるいは量子化学を教える方々の参考にもなろうかと思います。田中武彦先生の角運動量の理論(前編(PDF;788K, 102ページ)・後編(PDF;272K, 66ページ))は、このテーマに関する数少ない日本語のテキストとして大変貴重であり、分子分光学で精緻な研究を進められる中で纏められた非常に有意義なものです。式の導出も丁寧に記述されています。その他にも、優れたテキストがたくさん収められておりますので、是非ご覧ください。Archivesも全て分子科学会の研究者の方に査読していただいてから公開しております。Archivesは、多いもので月に1テキストあたり数千件のダウンロード数を誇っており人気の高いセクションです。
Molecular Scienceの記事は著者が渾身の力で纏めた力作であり、我々にとってかけがえのない財産です。これらは長い間多くの方に読んでいただけるよう日本科学技術振興機構の運営する電子ジャーナルサイトJ-stageに搭載し、GoogleやCross-Reference, Pub-Medなどの検索エンジンやデータベースにも情報提供し、世界中から検索、引用されています。ご存じない方も多いと思いますが、電子ジャーナルでは、記事(Accounts, Reviewなど)をJ-stageに載せるための組み版、ファイル作成に1ページあたり数千円の経費がかかります。その経費は分子科学会の予算と共に企業からの援助でまかなわれています。Molecular Scienceの全ての予算は優れた文章を世界に発信するために使われています。是非優れた記事を積極的に投稿していただければと思います。
Archivesでは、これほど大部なテキストを提供していただいているにも関わらず、著者の先生方に謝礼等は全く差し上げておりません。既に纏めておられるテキストを公開することを基本とする事情はあるにせよ、実際には査読後に修正の労をとって頂いており、そのご尽力には感謝する術がないと感じるところです。テキストを開く皆様には、是非、著者、査読者、編集者が一体となって進めてきたArchives事業への情熱にも思いをはせつつ、ページをめくって頂けたら、とても有り難く思います。また、ご意見をお願い申し上げます。
以上、簡単な道案内をさせていただきましたが、8月末をもって第1期編集委員会から第2期編集委員会に引き継ぎます。これまでの皆様からのご支援に心から感謝いたしますと共に、今後ともMolecular Scienceを宜しくお願い申し上げます。
2008年8月1日
第1期編集委員長 鈴木俊法